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京都地方裁判所 昭和36年(ソ)3号 決定 1962年3月06日

抗告人 前田照子

相手方 小原靖弘

主文

原決定を取消す。

京都簡易裁判所の裁判所書記官は、同庁昭和三三年(イ)第四一八号和解調書の和解条項第三項に定める登記手続義務につき抗告人のため相手方両名に対する承継執行文を付与しなければならない。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりであつて、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

勢至政子外一名を申立人とし、宮田藤一外二名を相手方とする京都簡易裁判所昭和三三年(イ)第四一八号和解調書の和解条項第三項において、右勢至政子は宮田藤一外二名に対し、同調書末尾添附目録記載の不動産につき存在する所有権移転請求権保全の仮登記に基く本登記手続を為すべき旨定められていること、その後伏見信用金庫が右宮田藤一外二名から、抗告人が右金庫から、順次宮田藤一外二名の勢至政子に対する和解調書上の前記権利を譲受け、抗告人がその承継執行文の付与を受けたこと、更に相手方小原靖弘が右不動産につき前記勢至政子から所有権移転請求権保全の仮登記を受け、相手方福山素温が右不動産中の抗告人主張の物件につき同様勢至政子から所有権移転請求権保全の仮登記及び根抵当権設定登記を受けたことは、いずれも一件記録により明らかであり、してみると相手方両名は昭和三五年法律第一四号による改正後の不動産登記法第一〇五条第一項第一四六条第一項の利害関係を有する第三者として、抗告人に対しその仮登記に基く本登記につき承諾を与える義務を負うものではあるけれども、抗告人に対する右本登記を為すべき義務は勢至政子のみがこれを負担し、相手方両名はいずれもこれを負担するものでないことが明らかである。

ところで、和解調書の執行力はその和解調書に表示せられた当事者及びその承継人の間に限り存在するものであり、この場合債務者の承継人とは、それが一般承継であると特定承継であるとを問わず、債務者の地位を承継した者と解すべきであるのに前記のとおり相手方両名を抗告人に対しその本登記につき承諾を与える義務はあるけれども右本登記を為す義務を負うものではなく、右本登記義務は依然勢至政子のみが負うものであるから、相手方両名はいずれも勢至政子の地位を承継した者ではなく、即ち前記和解調書の承継人ではないと考えることもまた必ずしも故なしとしないかに見える。

然しながら、例えば、(一)B名義の抵当権設定仮登記のあるC所有の不動産の所有権移転登記を受けたAは右仮登記権利者Bに対しその仮登記に基く本登記を為すべき義務があるから、その本登記義務につき右Bと前所有者Cとの間に債務名義が存在しAの所有権取得登記がその債務名義成立の後であるときは、右Aは債務者Cの承継人となることは何人も怪まないであろうしまた、(二)登記原因無効のため前所有名義人Dに対し自己の所有権取得登記の抹消登記義務を負うEからその不動産の所有権移転登記を受けた者Fは右Dに対し自己の所有権取得登記の抹消登記義務を負うから、この場合にもEの抹消登記義務につきDとの間に債務名義があり、Fの所有権取得登記がその債務名義成立の後であるときは、Fは債務者Eの承継人となることもまた何人も怪まないであろうから、本件をこれらの場合と対比し考えてみると、右(一)の場合のAは前主CがBに対して負担したのと同一の事項を登記すべき義務を負い、右(二)の場合のFかDに対して負担するのはEF間の所有権移転登記の抹消登記義務であるのに反し、EがDに対して負担するのはDE間の所有権移転登記のそれであつて且つ右E、Fの各義務は併存し、更に本件において相手方両名が抗告人に対し負担するのは前記のとおり抗告人の本登記についての承諾義務であるのに反し、勢至政子が抗告人に対し負担するのは右本登記そのものを為すべき義務であつて且つ右両義務は併存しているのであり、以上の各義務者の負担する義務は三者それぞれその内容が異り、殊に右(一)の場合はCの義務はAの義務の発生により消滅するのに反し、(二)の場合におけるEの義務及び本件における勢至政子の義務はいずれもF及び相手方両名の義務の発生の前後を通じ何等消長がない点において著しい差異があるけれども、右の各場合においてA、F及び相手方両名の義務はいずれも、B、D及び抗告人に対して登記義務を負担するC、E及び勢至政子から、その義務について債務名義が成立した後に、その不動産についての登記を受けたことに因り発生したものであり、その義務の本質は、負担附の物件を取得した者がその負担の実現を強制せられ、権利者をしてその完全な権利が登記簿上に如実に反映することを得しめることにあり、いい換えると、その義務は、仮登記の効力の故に中間処分が排除せられるところから生ずるもの、即ち、仮登記を本登記に改める際に障害となる自己の権利を排除すべき義務であつて、それが登記法において、前記の(一)の場合にあつては本登記そのものを為すべき義務とせられ、前記の(二)の場合にあつては自己の取得登記の抹消登記義務とせられ、更に本件にあつては承諾義務とせられているに過ぎないのであるから、相手方両名は債務者勢至政子の承継人と解するのが相当である。

なお、不動産登記手続を命ずる債務名義についても、その当事者に承継がある場合には、民事訴訟法第七三六条を準用して、執行文を付与すべきものと解せられるから、相手方両名を本件和解調書の債務者勢至政子の承継人として、これに対する執行文の付与を求める抗告人の本件申立は正当としてこれを認容し、原審裁判所書記官に対し右付与を許可すべきものであつて、これと異る見解の下に右付与を許可すべきものでないとして抗告人の異議を却下した原決定は不当であるからこれを取消し、民事訴訟法第四一四条第三八六条に則り主文のとおり決定する。

(裁判官 竹内貞次 古田時博 川口冨男)

抗告の趣旨

原決定を取消す。

京都簡易裁判所昭和三三年(イ)第四一八号和解調書の和解条項第二項中登記義務につき原申立人政子の承継人小原靖弘、同福山素温両名に対し執行力ある執行文を抗告人に付与する。

右趣旨の御裁判を求める。

抗告の理由

一、原決定には法令解釈につき誤りがある。抗告人の主張する事実関係は原決定摘示の通りであるが、原決定は右事実関係から小原靖弘及び福山素温は債務者勢至政子の債務(所有権移転登記手続をなすべき義務)の承継人と解することはできないと述べ、その理由として承継とは当事者の変更により新たに債権者或は債務者となつた者が前債権者或は前債務者の地位を受け継ぐことであるが、本件の場合小原及び福山は該不動産につき抵当権設定登記或は所有権移転請求権保全仮登記を有するにとゞまり、未だ所有権の一部をも収得した者ではないから単に登記簿上利害関係を有する第三者というにとゞまり債務者の地位を承継したものではない。所有権移転登記をなすべき義務ある者は不動産の所有名義人勢至政子のみであつて、執行当事者には毫も変更がないと判示している。然しながら昭和三五年四月一日から実施された改正不動産登記法第一〇五条第一項、同第一四六条第一項によると、相手方承継人たる抗告人が和解申立人勢至政子に対し和解条項に基き有する所有権移転本登記請求権は、該不動産について所有権移転請求権保全仮登記又は抵当権設定登記を受けておる小原靖弘及び福山素温の承諾書又は之に対抗することを得る裁判がなければ実行できなくなつている。

ところで右両名が該不動産につき所有権移転請求権保全仮登記を取得したのは、いづれも和解調書によつて抗告人の勢至政子に対する所有権移転本登記請求権が確定し、かつ改正不動産登記法が実施された以後である。従つて右両名は、一旦和解調書で確定された勢至政子の抗告人に対する所有権移転登記義務を勢至単独で履行することが不可能な状態を事後的に作り出した以上、所有権移転登記に承諾を与える義務を負担するは勿論、勢至と共同的に右手続に協力すべき義務を負担するものと云わねばならない。すなわち右両名は前記仮登記を取得することによつて従来勢至一人の債務であつた所有権移転登記義務を三名で共有するに至つたのである。このような関係はあたかも債務者が占有していた一個の不動産の一部を第三者が承継して占有している場合と同様債務者の債務の一部を承継しているものと云わねばならない。

従つて右両名を勢至の債務の承継人ではないとして、抗告人の異議申立を却下した原決定は不動産登記法第一〇五条第一項、第一四六条第一項及び民事訴訟法第五一九条第一項の解釈を誤るものである。

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